べースキャンプから1.5kmほど西に小高い丘陵がある。その上空でいつも3羽のハイイロチュウヒがじゃれあっているので、その内に登ってみようと考えていたがつい後回しになっていた。今年の北極圏は、8月だというのに雨が多く、数少ない青空にはできるだけ遠くに足を伸ばしたかった。撮影予定も終わりに近づき、空に浮かぶ雲も遠出を勧めていない。今日はいいチャンスだった。

 

朝6時頃にテントを離れて400mもない丘を登るが、斜面は崩れやすい瓦礫状の岩に覆われてていて何度も足を滑らせてしまう。冷や汗をTシャツに滲ませながらようやく着いた頂上は想像よりも広く、平らな台地状になっていた。だが今日に限ってチュウヒ達の姿がない。少しがっかりしながらも辺りを探し歩くと、岬の様にせり出した台地の突端で、白い何かが目に止まった。それは古い古いカリブーの角だった。随分と長い時をここで過ごしてきたのだろう。かつて他のオスたちを圧倒したかもしれないその角は、幾度の季節を経験する中で雨に削られ、谷を吹き抜ける風に乗って散り、今や土へと向かって朽ちかけていた。

 

北極圏の荒野を見下ろす高台の上に静かに横たわる1頭のカリブーの角。土へ還る途上の姿を眺めていると、生き物と土の境界があいまいになってくる。思うに、風景とは輪郭のある絵画のようなものではない。生命そのものなのだ。僕は角の持ち主が最期に見た風景を同じように眺め、巡る景色に想いを馳せた。
                                                                            ー2015.8.20 アラスカ北極圏 ブルックス山脈にてー

生物と無生物の原野で