足元の住人たち

2日前までに降り積もった雪は僕の腰ほどにまで達していた。まいった、夏山用の装備しか持っていない。デナリ国立公園の凸凹道をキャンパーバスに揺られながらもう2時間ほどたっただろうか。いくつもの谷を抜け、山々が連なるエリアに差し掛かかったところで僕はバスを降りることにした。深雪をラッセルしながらしばらく歩いてみたが、やっぱり雪解け水が裾に染みを作り始めていた。それでも雨具で靴を覆い、去年この辺りでハウリングしていたオオカミの痕跡を探し歩いてていると、真新しい足跡が東向きの急登を登っているのに気がついた。雪山にも関わらず、ジャケットが汗で濡れるほど登ってはみたものの、雪が深すぎてそれ以上追うことが出来ない。仕方なく、僅かに残された草地に腰を下ろすことにした。

 

コーヒーをすすっていると、突如として悲鳴のような鳴き声が谷に響き渡った。驚いて辺りを伺うと何頭ものホッキョクジリスが侵入者を覗いている。岩の上で警戒音を発していたのはクビワナキウサギだった。僕が心地よい場所は彼らにとっても同じだったようで、どうやらマンションの真上に座っていたらしい。いつもなら一言謝ってすぐに立ち去るところだが、疲れ切った僕のお尻を雪の上に置くわけにもいかない。できるだけ静かに休ませてもらっていると、彼らも次第に普段の生活を取り戻し、活発に走り回っていた。それにしても、雪をものともせずに動き回る彼らは、小さな身体のどこからその熱量を生み出しているのだろうか。僕は足元に広がる小さな世界からオオカミにも引けをとらない強い生命力を感じた。

     

                              −2015.9.3 アラスカ デナリ国立公園にてー